朴槿恵の罷免と緊迫する朝鮮半島情勢 THAAD配備を急ぐ米国の太平洋東アジア地域戦略

2017/3/13(Mon)
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3月10日、韓国の憲法裁判所は、汚職や収賄を理由として全員一致で朴槿恵大統領の罷免を決定。この2日後、朴氏は大統領府を去りました。今後、朴氏は刑事訴追を受ける可能性があります<追記:4月17日、収賄罪などで起訴されました>。今回の政変は、在韓米軍へのミサイル防衛システムの配備が進められる中、そして、北朝鮮がミサイル発射実験を行った直後の出来事でした。一方、現在進行中の米韓合同軍事演習には、多数の兵器と兵士が投入されており、その規模は過去最高と言われています。朝鮮半島の緊張が高まる中、中国の王毅外相は、米国と北朝鮮は「衝突に向け加速している列車のようだ」として両国に自制を呼びかけました。レックス・ティラーソン米国務長官は、就任後初の日韓中のアジア歴訪を予定しています。記者団を帯同しないという異例の形での訪問です。

緊迫化する朝鮮半島情勢について、東アジア政治史の専門家でシカゴ大学のブルース・カミングス教授と、女性による平和運動「ウィメン・クロスDMZ」の創始者で国際コーディネーターのクリスティーン・アン氏に話をうかがいます。

アン氏は大統領罷免に至った韓国内の状況を説明し、米国との合同軍事演習による南北関係の悪化を含め労働政策や農業政策で韓国の危機的状況を招いた朴槿恵氏に対し、多くの国民が抗議の声を挙げた民主主義の勝利と高く評価する一方、盧武鉉時代の対話路線を引き継ぐリベラル派候補が有力紙される次期大統領選挙までの政治空白の中で、米国が北朝鮮への威嚇を強め、地域全体を非常に危険な状況に導きかねないと警戒しています。

カミングス教授も、米国内で北朝鮮に対して軍事力行使もやむなしとの考え方が広まりつつあることを指摘し、その動きに懸念を示しています。すでにオバマ政権の時代から米・韓は北朝鮮体制崩壊に備えた「作戦計画5015」と呼ばれる軍事作戦を用意しており、米海軍特殊部隊による北朝鮮指導部の首を刎ねる作戦などが漏れ伝わります。その一方で、米国の専門家でさえ有効性を否定するTHAADミサイル防衛システムを韓国の政権交代の前に設置してしまおうと急いでいますが、これに対し中国はTHAADシステムの本当の狙いは中国国内の監視だとして、反発を強めています。米国は韓国と日本を引き込み中国に対する3国包囲網の構築を推進していますが、対米従属路線の朴槿恵政権が倒れたことで目論見どおりに進まない可能性が出てきたことが北朝鮮危機にどう影響するのか、きわめて不安な状況です。(千野菜保子)

☆その後、懸念されていたとおり米国は北朝鮮に強硬な態度をとり、危機を煽っています。最新の状況について4月17日に再度ブルース・カミングス教授へのインタビューが放送されましたが、そこでは米国の太平洋東アジア政策が詳細に論じられており、必見です。こちらのインタビューは5月8日発売の雑誌『世界』6月号に掲載予定です。

*クリスティーン・アン(Christine Ann):非武装地帯を行進する国際的な女性平和運動「ウィメン・クロスDMZ」(Women Cross DMZ)の創設者で、国際調整担当者。
*ブルース・カミングス(Bruce Cumings):シカゴ大学歴史学教授。『現代朝鮮の歴史―世界のなかの朝鮮』をはじめ朝鮮半島に関する多数の著作あり。

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字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子
全体監修:中野真紀子