スティーブン・キンザー(1):米国のレジームチェンジと内政干渉の百年史 イラン、ニカラグア、ハワイ、キューバ
トランプ大統領の言いなりに、あまり役に立ちそうもない米国製兵器を法外な値段でどんどん買いこむ日本の総理大臣。この人物が米国の要求に一度でも「ノー」と言ったことがあったかどうか、なかなか思い出せません。ここまで卑屈だと目立っちゃいますが、日本の指導者が米国の意向をうかがい、忖度するのは昔からです。アメリカ帝国主義の歴史を追うスティーブン・キンザーの話を聞けば、その理由がよくわかります。
過去100年の米国の外交政策のキーワードは「レジーム・チェンジ」(体制転覆)です。これは米国に従わない他国の指導者をCIAがクーデターを画策して倒し、親米体制に替えることを指します。この政策がもっとも露骨に現れているのが、グアテマラ、ニカラグア、ハイチ、ドミニカ共和国など、カリブ海や中南米地域の国々です。20世紀初頭のグアテマラ大統領ホセ・サントス・セラヤが独自の外交姿勢を鮮明にしてつぶされたように、この地域では対米自立はご法度です。米国は民主主義の保護者を標榜しながら、選挙の結果、自国の利益を優先する指導者が出現した時には卑劣な手段で民主主義もろとも葬り去り、都合の良い独裁者を押し付ける。このパターンは現在も続いており、2009年のホンジュラスの軍事クーデターでも民主政権が倒され、独裁体制の下で暴力が蔓延し、ホンジュラスから逃げ出した人々が難民キャラバンとなって大挙して米国を目指しています。
一方、トランプ大統領は今年になってイラン核合意から一方的に離脱し、イランへの経済制裁を同盟国にも押し付けて困惑させています。イランに対する米国の猜疑心は尋常ではありませんが、その背景には長年にわたる両国の強烈な相互不信の関係があります。その端緒は1953年に石油資源の国有化を宣言したモサデク大統領を英米がクーデターを画策して倒し、イランに芽生えた民主主義をつぶしてしまったことにあります。CIAの秘密作戦で長期的影響など考えもしなかった米国ですが、やがてイランで起きたイスラム革命が米国の安全保障の大きな脅威として成長してきました。このように、身勝手で卑劣なレジームチェンジの乱発は、最終的には米国自身にしっぺ返しがくるもののようです。
この後の第二部は、植民地支配からの独立がアイデンティティの核にある米国が、どうして世界帝国に変貌したか、キンザーの新著から興味深い話を紹介します。(中野真紀子)
スティーブン・キンザー(Stephen Kinzer) :元ニューヨークタイムズ紙の海外特派員、現在はボストン・グローブ紙で国際問題のコラムを担当。『転覆~ハワイからイラクまで米国によるレジームチェンジの世紀』、『シャーの手下たち~米国による政権転覆と中東のテロの根源』、グアテマラのクーデターについての『苦い果実』など、著書多数。最新作『本当の旗~セオドア・ルーズベルト、マーク・トウェイン、米帝国の誕生』は最近ペーパーバック版が出版に
字幕翻訳:デモクラシー防衛同盟
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・岩川明子・関房江
全体監修:中野真紀子