ナオミ・クライン:本当の犯罪現場はG20サミット会場の中だった
フェンスで守られたサミット会場の中では何が話し合われたのでしょうか?主要20カ国の首脳たちは、2013年までに自国の財政赤字を半減させるという財政再建の目標で合意しました。実現のためには大幅な増税に加え、社会福祉や医療扶助など政府支出の大幅削減が必要です。その一方で、世界的な経済危機をつくりだした元凶である巨大銀行に対し、将来の危機を防止するための規制や国際課税の導入は見送られました。
トロント在住のジャーナリスト、ナオミ・クラインは、「財政赤字を半減させるには、ぞっとするほど過酷な支出削減が必要です。こんな合意を本気で実行する指導者がいるとは思えませんが、合意を口実にして日頃から狙っていた政策を断行するでしょう。サミットで決まったのは、世界の特権階級が飲めや歌えやのドンチャン騒ぎをしたあげく、散財のツケを世界中の貧しい人たちに回すという取り決めです。財政均衡のために、年金や医療や失業手当などを削るのですから。首脳たちが去った後の会場を見て、本当の犯罪現場はこっちだと思いました。」と言います。
さいわい日本は、赤字半減という共通目標からは例外扱いになりました。外国に借金があるわけではないので当然ですが、それにもかかわらず管首相は「財政再建」の流れに同調(あるいは便乗)して消費税引き上げなんてことを言い出しました。外交デビューでどれだけ「存在感を示せたか」だの、オバマと笑顔で握手できただのは、どうでもいいんですけどね。
それにしてもハーパー政権下のカナダの変貌ぶりは驚きです。急速な軍国主義化に、カナダ人自身がとまどっているようです。平和維持に貢献する国際舞台のハト派という伝統的なイメージは、アフガニスタン派兵によって吹っ飛びました。また環境保護の国だったはずが、オイルサンド採掘の推進によって、気候変動をもたらす最大級の戦犯になりました。こんな自国の姿への怒りが、G20に反対する街頭運動の背景にあるとクラインは指摘します。
これほど多くの逮捕者を出した背景には、巨額の治安対策費を正当化しようとする警察の焦りがあったようです。今回のサミットの警備予算は10億ドルと歴代サミット中でも桁はずれに大きく、史上最高の支出額でした。昨年のピッツバーグG20サミットが1億ドルですから、10倍にはね上がったことになります。これが明るみに出て国民の怒りが噴出し、警察は弁明を迫られていました。
警察は、パトカーへの放火やショーウインドウの破壊をいっさい止めようとせず、同じ車が何時間も燃え続けていたといいます。それどころか記者発表を行い、「テレビをつけて見て下さい、パトカーが放火されています」と宣伝しました。法外だとして政治問題化した警備費の大判振る舞いを、「活動家の組織的な暴力」によって正当化するためです。一部の暴徒を放置し、その結果おこった破壊を口実にして過剰な弾圧を行い、大勢の活動家を一斉検挙する──ジャーナリストや通行人も巻き添えです。デモに行く時は、自衛のためのカメラをお忘れなく(中野)
*ナオミ・クライン(Naomi Klein) ジャーナリストThe Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism(『ショックドクトリン 火事場泥棒の資本主義』)など著書多数。カナダの新聞グローブ&メールに、"Sticking the Public with the Bill for the Bankers’ Crisis"(「銀行危機のツケを国民に回す」)という記事を寄稿した
字幕翻訳:川上奈緒子/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子