気候変動の第一人者ジェイムズ・ハンセン博士に政府の弾圧

2008/3/21(Fri)
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ジェイムズ・ハンセン博士は、地球規模の気候変動に関する米国きっての専門家として広く知られています。25年にわたり、NASA(米航空宇宙局)のゴダード宇宙研究所の所長をつとめてきた彼は、1988年の議会証言で地球温暖化について警告し、この問題に初めて世界の注意を促しました。

2006年1月ハンセン博士は、気候変動に早急に取り組む必要があるという研究結果の発表をブッシュ政権から妨害されたとニューヨークタイムズ紙に伝え、世界のメディアに大きく取り上げられました。ハンセン博士その人をスタジオにお招きして、お話を聞きます。

この言論弾圧の経緯について詳しく書いた『科学への検閲』という本が出ました。著者のマーク・ボウエンにマサチューセッツから出演してもらいます。

石油業界と結託するブッシュ政権は、海洋大気庁やNASAの科学者に圧力をかけて、地球温暖化の情報を公開したり、温暖化とハリケーンの関係をマスコミに話すのを阻止しようとしました。しかし温暖化についての情報を伏せたがる態度はクリントン政権も同じで、副大統領当時のアル・ゴアもそれに加担していたとハンセン博士は証言します。いずれの党も、政府系機関で働く科学者が研究成果を公表するにあたって、内容を政府が管理できると考えているのです。政党から任命された科学機関の広報担当者が、科学者による記者発表の内容を事前にチェックし、内容を改ざんすることさえ普通に行われているそうです。

博士は2005年末の地球物理学会の発表で証拠を網羅して温暖化の全貌を明かにし、それと同時に特定利益集団が意図的に一般の人々を混乱させて、現状についての科学的な議論を阻んでいることも指摘しました。石炭や石油の業界が少数のお抱え科学者を用意してデマを流し、メディアに「公平」な扱いを要求します。すなわち温暖化を警告する科学者が出演するときには、必ず「異常なし」という立場も引用せよというのです。そうすることによって、人間活動が気候に影響しているのがあたかも不確実であるかのような印象を与え、不確かな事に対策は取れないと言えるようになるのだとハンセン氏は言います。

「現在どれほど危機的な状況にあるか」との問いに、ハンセン博士は数年のうち軌道修正しないとたいへんなことになると答えます。システムの慣性によって、いったん起こった変化への反応が何十年も続くからです。気候変動には、まだ表面化していないだけのものがたくさんあり、手遅れになる前に今すぐ行動を起こす必要があると博士は訴えます。(中野)

ジェイムズ・ハンセン(Dr. James Hansen)気象学者。ゴダード宇宙飛行センター(メリーランド州グリーンベルト)の地球科学部門であるニューヨークのNASA宇宙研究所所長。 コロンビア大学地球環境科学の兼任教授。1970年末から人間の活動が地球の気候に及ぼす影響を研究し、1980年代に米国議会で気候変動について証言して地球温暖化問題への関心を促した。1995年全米科学アカデミー会員、2001年ハインツ環境賞受賞。

マーク・ボウエン(Mark Bowen)Censoring Science: Inside the Political Attack on Dr. James Hansen and the Truth of Global Warming (『科学への検閲 ジェイムズ・ハンセン博士への政治攻撃の内幕と地球温暖化の真実』)の著者。前著はThin Ice(『薄氷』)

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字幕翻訳:川上奈緒子 /校正・全体監修:中野真紀子