レバノン 米国が支援する政府側武装勢力とヒズボラが衝突
レバノンでは5月にヒズボラ率いる反政府軍と米国が支援する政府支持派が衝突し、内戦終結以来最大の国内危機を迎えました。一時は反政府軍がベイルートの大半を制圧する事態に発展し、80人以上が死亡し、多数の負傷者が出ました。カリフォルニア大学のアスアド・アブハリール教授に背景を聞きます。
「スーダンやパレスチナ、イラク、アフガニスタン、ソマリアなどで起こっていることと非常によく似ています。米国が内戦をけしかけ、資金を提供しているのです」と教授は述べます。ヒズボラは局地クーデターを起こしましたが、それは米国とサウジとイスラエルが影で仕掛ける全面クーデターを防ぐためでした。ヒズボラが武装組織なら、政府側も武装組織なのです。
レバノンの分裂は2005年のハリリ首相暗殺が発端ですが、ここまで事態が悪化したのは米国の製だと教授は指摘します。米国はレバノン中に民兵組織を作ろうとしており、セニオラ政権を強化するため14億ドルを使ったそうです。愛国心につけ入るのと同じように、レバノンでは宗派主義を利用します。米国とサウジは、大々的な宣伝によって、スンニ派をシーア派から引き離し、ヒズボラに対抗する民兵組織を作ろうとしました。
「ガザのダハランの治安部隊が米国の支援でヨルダンが訓練しサウジが金を出していたのと同じように、ハリリの民兵も長続きしないでしょう。大儀がないからです。米国は金と武器は出しても、信念は与えられない。だから形勢が悪くなると、彼らは逃げます。イスラエルが南レバノンから撤退したときもそうでした」
この後、アラブ連盟の仲介で「ドーハ合意」が成立して紛争は沈静化しました。空白が続いていた大統領のポストも、5月末にレバノン各派の合意によってミッシェル・スレイマン国軍司令官が就任しましたが、政情不安は続いています。(中野)
アスアド・アブハリールAs'ad AbuKhalil カリフォルニア州立大学の政治学教授。アングリー・アラブ・ニュースサービスというブログ angryarab.blogspot.com を作っている
翻訳・字幕:中野真紀子 / 監修:高田絵里