インドの活動家プラフル・ビドワイ:気候変動の政治学と危機に陥る世界
「汚染会議」とまで呼ばれた南アフリカ、ダーバンでの国連の第17回気候変動枠組条約締約国会議(COP)。過去150年間にわたる最大の温暖ガス排出国である米国は、自国が参加すらしていない京都議定書で中国が発展途上国として規制を受けないことを交渉を遅らせる口実にし、交渉自らの排出量をしばることになる世界的な規制作りへの真剣な取り組みを拒みました。インドのジャーナリスト・評論家・平和運動家のプラフル・ビドワイ氏は、人口の55%が電気へのアクセスが無く、発展を必要とするインドのような貧困国を責め、これまで蓄積してきた排出量をほおかぶりしようとする米国の不正義を問います。「大気中に蓄積され、そこに残留し数千年の間地球を温暖化する、全ての温室効果ガスの4分の3は、北半球の先進国からの排出、米国はその4分の1以上に対して責任がある」のです。
ところでビドワイ氏は、平和運動家でインドの核軍縮運動の創設者だそうです。「核兵器も気候変動も人類と文明の生存への脅威」、いずれも生命がかかった問題で「持続可能な未来を作る試み」という位置づけのようです。だから、フクシマで、原子力産業は終わったと断言します。「原発の事故の可能性は、8年毎に1件。ドイツのある研究によると損害はドイツの歳入を超える11兆ドルに及ぶ。世界第3位の経済国が吹っ飛ぶ金額です」。又、原発は、石炭・石油よりクリーン、原発は安あがりという、原発推進派の主張にも反論します。「直接二酸化炭素を産出することはなくても、ウラニウム鉱山の段階から核燃料サイクルの各段階で廃棄物と放射能の問題が生じる」それを、どうするのか、と。
インドのジャイタプール原発建設に関して、フクシマ後の日本からの原発輸出に向けた政府間の動きは消えていません。ビドワイ氏は、別の場所で、その件を取り上げた記事を書き、豊かな農業・園芸・漁業経済に支えられたジャイタプールでの原発建設が生物多様性を危険にさらすこと、漁民が反対していること、地震の多発地帯であることなどを問題にしています。また、2012年1月に横浜で開催された「脱原発世界会議」にも参加し、「原発も核兵器もない世界」の実現を訴えました。
中国やインドの排出量の増加(それでも両国とも2020年までに削減を提案している)を盾にする米国を問題にするなら、インドの貧困からの決別・開発を理由に原発輸出をおためごかしに進めようとする日本とインド両政府、および業界も、そしてその監視役であるべき市民も、自分たちは後戻りの出来ない何を犠牲にしようとしているかを問われることになるでしょう。(大竹秀子)
*プラフル・ビドワイ(Praful Bidwai) インドのジャーナリスト・評論家・平和運動家。インド国内紙はもちろん、ガーディアン紙、ネイション誌、ルモンド・ディプロマティーク誌などにも寄稿している。新著はPolitics of Climate Change and the Global Crisis: Mortgaging Our Future (『気候変動の政治学と世界的危機:抵当にされた未来』)。 インドの『タイムズ』紙の元編集長で、インドの核廃絶運動の創設に携わった。
字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗