合衆国メディアの現状と問題点:メンフィスで開催されたメディア改革全国大会に数千人が参加
今年1月に、テネシー州メンフィスで行われた「メディア改革全国大会」では、全米50州から数千人が駆けつけ、合衆国のマスメディアが直面する問題点と、変革のための提案を話し合いました。大会の発表者には、ビル・モイヤーズ、ジェシー・ジャクソン、ジェーン・フォンダ、ヘレン・トーマスなどが顔を連ねました。番組でも現地ロケを行い、何回かにわけてその様子を報道していますが、これはその第一弾です。
< アメリカの通信行政をつかさどるFCC(連邦通信委員会)の5人の委員の一人、ジョナサン・アデルステインと、このメディア改革全国大会を主催した「フリープレス」の創設者の一人ロバート・マクチェスニーの二人が、現在合衆国のメディアが抱える問題点を詳細に語ります。
一つの大きな流れとして、 ここ何十年にもわたって大資本によるマスメディアの集中と系列化が着実に進んでおり、ニュース編集の一元化による情報操作の問題や、一般の番組からも多様な主張や価値観の存在が過小評価されマスメディアが現実から遊離していくという弊害があります。メディア行政をつかさどるFCCは5人の委員で構成されていますが、現在はそのうち3人が共和党に属しており、大企業に有利な決定が下されやすい状況になっています。
そういう背景のもとに、いくつかの問題が論じられています。
ひとつは「ネットの中立性」をめぐる議論です。だれが回線コストを負担するのか、という問題から、情報配信ルートの有料化と階層化が検討されていますが、それはネットに有料高速道路を設けるようなものであり、自由な情報の流通を阻害し、ネットから公共性を奪うとして反対があがっています。この道路を握っている通信大手に、ネットの中立性という観念を尊重させることができるのでしょうか。
また通信と放送の融合の波を受けて、地域ケーブルTV事業にAT&Tなどの通信企業が進出しています。地域ケーブルTV網は、60-70年代の草創期に地域コミュニティとのあいだに一定の公共チャンネルを住民に開放するという取り決めを結び、このパブリックアクセス・チャンネルの興隆が住民参加型の非営利放送網の発達を促してきました。でも、新たに参入する通信企業は、そのような取り決めに縛られずにすむようFCCに圧力をかけています。それに従って既存のケーブル局も地域奉仕という観念を反故にすれば、パブリックアクセスの制度自体が脅かされます。
さらに、寡占化の進展と情報の一極集中は、マイノリティや女性によるメディアの所有の減少となって現れています。これにより彼らがメディアに登場する機会は減少し、メディアが伝える声から多様性が失われていることが指摘されています。新聞と放送のあいだの所有の垣根がはずされれば、ひとつの地域で同じ資本がマスメディアを独占し、情報発信を一元化することになると憂慮されています。(中野)
ジョナサン・エーデルステインJonathan Adelstein は、2002年に就任した民主党のFCC委員です。
ロバート・マクチェスニーRobert McChesney は、イリノイ大学教授でメディア改革全国大会を主催するFree Press の創始者の一人です。最新の著作はこれ→ "Tragedy & Farce: How the American Media Sell Wars, Spin Elections, and Destroy Democracy."
字幕・翻訳:甘糟智子 石川麻矢子
全体監修: 中野真紀子