歴史家ハワード・ジン(1922-2010)追悼 ノーム・チョムスキー、アリス・ウォーカー、ナオミ・クライン、アンソニー・アーノーブ
1月27日に心臓発作により87歳で急逝した歴史家・著述家・活動家のハワード・ジンの追悼番組です。古典的な名著『民衆のアメリカ史』は、米国人の歴史の見方を変えたと言われます。通算100万部以上を売り、最近『民衆は語る』というテレビ番組も作られました。ジン本人の映像につづき、彼を最も良く知っていた盟友のノーム・チョムスキー、教え子のアリス・ウォーカー、ナオミ・クライン、アンソニー・アーノーブの諸氏により、ハワード・ジンの功績と、今日における重要性を語ってもらいます。
チョムスキーによれば、ベトナム反戦運動の中で、「無条件、即時撤退」の要求を最初に唱えたのはハワード・ジンだそうです。その『撤退の論理』は、当時はあまりに衝撃的だったので言論界では敬遠され、書評も載らなかったそうです。それでも、その主張はあっというまに人々に浸透し、アメリカ人の戦争に対する見方を根本から変えました。
一つの世代全体の物の見方を、それまでとはがらりと変えてしまうというジンの稀有な才能は、『民衆のアメリカ史』において見事に発揮されました。彼の手法は歴史の中の「無名の人々の、無数の小さな行動」を大切にして、注意深く掘り下げて、そこから歴史を理解しようとするものです。無数の小さな行動が積み重なって、やがて歴史に刻まれる偉大な瞬間がやってくるのだと、彼は信じていました。無数の小さな行動を見ずにして歴史の理解は始まらないと彼は雄弁に語り、みずからも積極的に行動に参加し、他の者たちもそこにいざないました。彼と一緒にデモに出ると、人生でこれほど有意義なことはないという気になってくるのだそうです。
そういう彼のドキュメンタリー映画が最近になって作られ、一種のリバイバル現象が起こってきたのは、今この時代にジンの主張が求められていることの表れだとクラインは言います。そうした中での急死は、ほんとうに残念でたまりません。(中野)
ジンはデモクラシー・ナウの常連で、日本語でもこれまで、なんどか取り上げてきました。こちらのページから、ぜひごらんください
☆ハワード・ジンの最期の書籍となった『爆撃』(TheBomb)が岩波ブックレットで出版されました。ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下50周年に描かれたエッセイと、第二次大戦に従軍して欧州の都市を爆撃した自らの体験と反省を基に、一般市民への爆撃を肯定してしまう戦争の論理の間違いを説いています。この夏、ジンの最期のメッセージに耳を傾けましょう。
★ ニュースレター第29号(2010.6.10)
*ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky) 言語学者、マサチューセッツ工科大学名誉教授。著書多数。世界的に著名な活動家で、ハワード・ジンとは政治活動を通じた長年の親友。
*ナオミ・クライン(Naomi Klein) カナダ人ジャーナリスト。新著はThe Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism(『ショックドクトリン 火事場泥棒の資本主義』)
*アリス・ウォーカー(Alice Walker) ピューリッツァー賞受賞の作家、詩人、活動家。アトランタの黒人女子大学スペルマン・カレッジで60年代初期にハワード・ジンの教え子だった。
*アンソニー・アーノーブ(Anthony Arnove) ハワード・ジンとの共同編集で Voices of A People’s History of the United States (『民衆のアメリカ史の声』)を出版し、また共同監督で映画Let the People Speak(『民衆の声』)を制作した。
字幕翻訳:川上奈緒子・小椋優子/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子・高田絵里