『監視国家アメリカの出現』 シェーン・ハリス新著を語る
ナショナル・ジャーナル誌の記者シェーン・ハリスは、過去四半世紀にわたる米国政府の監視プログラムを設計してきた人々に取材し、『監視国家アメリカの出現』を書きました。いかにして市民の監視が簡単かつ合法的にできるようになってきたのか、またそれが今やどれほどまでにオバマ政権の国家安全保障戦略の要になっているかを論じています。 ブッシュ政権時代にジョン・ポインデクスターが進めた「全情報認知計画」は令状なしの盗聴など国内の情報を網羅的に収集しようとするものでした。こうした監視政策にオバマは選挙戦で強く反対しましたが、実際に自分が権力を握る立場になるとがらりと意見を変え、監視権限の強化は有益であると言い始めました。在任中に重要な情報を逃してミソをつけたくはない。ポインデクスターが手をつけたプログラムは別の名前でNSA(国家安全保障局)が引き継いでいます。
それでも昨年クリスマスに起こったノースウェスト機爆破未遂事件では、政府の情報収集があまり役に立っていないことをさらけ出してしまいました。ハリスによれば、政府が収集する情報はあまりに膨大すぎて、十分な分析も、有効な利用もされぬまま積み上げられています。FBIやCIAやNSAがそれぞれ独自のネットワークを複数運営しており、80以上の独立したデータベースにばらばらに蓄積されています。
セキュリティーと縄張り意識のために、これらのデータベースは相互につながっておらず、これらの情報機関を統合するテロ対策センターでは職員のデスクに何台ものパソコンが並び、特定のキーワードを検索するために個々のデータベースごとにコマンドを入れる、ほとんど手作業の状態なのだそうです。ずいぶんまのぬけた話ですが、こんなものが膨大な予算を割り当てられ、人々のプライバシーをふみにじる権利を行使しているというのは笑えません。(中野)
シェーン・ハリス(Shane Harris) ナショナル・ジャーナル誌の特派員。The Watchers:The Rise of America’s Surveillance State(『監視国家アメリカの出現』)が最近刊行された。
字幕翻訳:内藤素子/校正・全体監修:中野真紀子