変わりゆくキューバ (1)米国との関係正常化がもたらす大きな希望と課題
1961年に外交が断絶されてから50年以上たつ今、キューバ・米国間の関係が大きく動きつつあります。2015年5月29日にキューバが米国のテロ支援国家から指定解除されたことも非常に大きな出来事でした。この動画では、前半に作家で歴史家のジェイン・フランクリンを迎え、テロ支援国家からの指定解除の意味や、なぜ今なされたのかについて伺います。
5月29日のテロ支援国家指定解除の発表により、キューバと米国の関係改善に向けた動きへの最大の障害が取り除かれました。ジェイン・フランクリンは、これにより、キューバの国際的な立場が見直され、金融機関との関係も改善することで市場が国際的に開かれるようになるとの見方をしています。
そもそもなぜ今、米国はキューバとの関係回復に向けて動き出したのでしょうか。フランクリンによると、この動きは米国が中南米諸国に強いられる形で決断を迫られたものでした。Organization of American States (OAS=米州機構)のキューバ復帰を求める決議に対し、OASサミットへの不参加を表明してまでもキューバの復帰を拒んだ米国は、逆に孤立を深めることになりました。その間に、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領のもと、米国とカナダを除く米州の国々によりthe Latin American and Caribbean Community of Nations (CELAC=ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)が発足し、米大陸諸国の連携の軸足がOASからCELACへと移っていったからです。つまり、今後も米国が米大陸で孤立せずに生き残るにはキューバと和解するしかなかったと言えるのです。
後半では、デモクラシー・ナウ!のカレン・ラヌッチが取材した最近のキューバ様子が紹介されます。民間観光業に焦点をあてた映画のクリップでは、ラウル・カストロが断行した規制緩和による民間の小規模事業の勃興と、昨年末からの米国人観光客の殺到により変化した経済活動の様子が映し出されています。一方で、民間事業の発展の波に乗りきれない人々との所得格差が、社会問題となりつつあることも浮き彫りになっています。米国との関係正常化で期待に胸を膨らませつつ、予想される大変革に前向きに備えようとする人々の姿が印象的です。 (山田奈津美)
☆この後に続くセグメントでは、1990年代以降に導入され、劇的な発展をみせたキューバ都市部の有機農業の大成功に焦点を当てます。こちらの動画は、10月17日に青山で企画しているイベントで紹介いたします。お楽しみに。
*ジェイン・フランクリン(Jane Franklin): キューバ史研究家、作家。Cuba and the United States: A Chronological History(『キューバと米国 ~年代記』)、Cuban Foreign Relations: A Chronology, 1959-1982(『キューバの外交関係 1959~82年の年代記』)など。
字幕翻訳:朝日カルチャーセンター横浜 字幕講座チーム:
千野菜保子・仲山さくら・山下仁美・山田奈津美・山根明子
/校正:中野真紀子